蘇軾にみる精神性(8)黄州寒食詩巻より

8.春を隠しておきたいが

黄州寒食詩巻 蘇軾筆 祥香臨

釈文:「闇中ひそか負去
    夜半真有力」

書き下し文は「闇中 ひそかに負(お)いて去る
       夜半 真に力有り」

現代語にすると、「暗闇にまぎれて力持ちがこっそりと春を
         盗んで行った。」

解説:「闇中〜有力」は『荘子』大宗師篇の「舟をたにに蔵
    し、之を沢に蔵して、之を固しと謂えり。然れども
    夜半に力ある者、之を負いて走る。くらき者は知ら
    ざるなり」に依拠している。

    荘子は、人の知恵の浅はかなことを述べたが、蘇軾
    は愛おしい春が一夜のうちになくなってしまったこ
    とを謳う。どこかユーモラスで微笑ましい。

参考文献:漢詩と名蹟 鷲野正明著 二玄社