藤の花房が美しい季節に(3)和漢朗詠集を臨書して

3.藤の花盛りで

粘葉本和漢朗詠集 祥香臨

 釈文「たごの浦にそこさへにほふ藤なみを
    かざしてゆかむみぬ人のため」

 選字は、「たこのうらにそこさへ爾ほふヽち那三
      を可さしてゆ可むみぬひとの多め」


 現代語にすると、多祜の浦の藤が花盛りで、その影が水に映って底まで匂うばかり
 の見事さです。これをかざしに挿していきましょう。。見に来られなかった人のために。

 鑑賞:「たごの浦」は富山県氷見市、元布勢湖の南の入江。今は陸地となっていますが
    天平勝宝二年(750)4月12日、22歳の家持が官人らと舟遊びをしたときに、
    縄丸が詠んだ歌です。

    万葉集巻十九詞書に、「十二日、布勢の水海に遊覧日、船を多祜湾に泊てて、藤の
    花を望み見て各懐を述べて作れる歌四種」の内の一首で
    「藤波の影なす海の底清み沈著く石をも珠とぞ我が見る」家持の歌の次にあります。

    藤の花には水が似合い、底までゆらゆらと影が映り優雅な情景です。
 参考文献:和漢朗詠集 川口久雄 講談社学術文庫