和歌一首を背景と共に味わう(1)関戸本古今集より

1.年ふれば

関戸本古今集 祥香臨

和歌一種を取り上げて、その背景や関連の文献から味わいつくす企画です。
今回は、取り上げるのは、古今集・巻一・春歌上・五十二から藤原良房がよんだ歌です。
 「年ふれば よはひは老いぬ しかはあれど
  花をし見れば物思ひもなし」

詞書に「染殿后のお前に、花瓶に桜の花をささせ給へるを見てよめる」とあります。染殿の后とは、良房の娘の明子(あきらけいこ)文徳天皇の女御のことで、父の邸染殿にお住まいだったことからその名があります。染殿邸の桜は実に見事であったので、世に聞こえていました。

貞観八年閏三月には天皇以下内外の諸官が集まり、桜花を愛でる盛大な宴が催されたほどでした。この歌は、老いを忘れさせるほどの桜の美しさを歌ったものですが、それだけではなく染殿の后と深い関係があるのです。

 参考文献:和歌の解釈と鑑賞事典 井上宗雄他編 笠間書院