能因や西行への憧憬「奥の細道」(3)

3.象潟はうらむがごとし

芭蕉自筆 奥の細道  岩波書店  祥香臨

芭蕉は蘇東坡の漢詩を思い起こし、句を詠みます。
釈文「江上に御陵あり。神功后宮の御墓と云。寺を干満珠寺と云。この処に御幸
ありし事、いまだきかず。いかなる故ある事にや。

此寺の方丈に坐して、簾を捲けば、風景、一眼の中に尽きて、南に、鳥海、
天をさゝへ、その陰うつりて、江に有。西は、むやむやの関路をかぎり、
東に、堤を築て、秋田にかよふ道遥に、海北にかまへて、波打入るゝ処

を汐こしと云。江の縦横一里ばかり、俤松嶋にかよひて、又異なり。
松しまは、わらふがごとく、象潟は、うらむがごとし。さびしさに、かなしびをくはへて、地勢、魂をなやますに似たり。

   象潟や雨に西施がねぶの花

   汐越や鶴はぎぬれて海涼し」*①

芭蕉は期待通りで素晴らしい象潟の景色を讃えています。「松島」を美人が口を開けて喜んでいる顔に、「象潟」は恨み言を言うようと両者を対比させています。
そして、美女西施を雨の中のねぶの花に見立てて、その美しさを句を詠んでいるのです。

               *出典:① 芭蕉自筆 奥の細道  岩波書店