書いてみたい季節の詩歌(2)夏の句

2.短か夜

久保田万太郎の俳句
 「短か夜のあけゆく水の匂かな

久保田万太郎は、小説家・劇作家・俳人。俳号は傘雨。永井荷風に師事し、江戸下町の情趣と義理人情を独自に描きました。

作者の代表作といわれる、芝居の一段落『短夜』の幕切れを思わせます。窓の外に白々明ける隅田川の、夏の夜明けの水のにおいが漂う句です。

ここで、『匂』について書きましょう。これは、日本の国字ですが、中国の漢字「匀」に由来します。「匀」は中国で「ととのう」の意味を表すが、それを日本では「におい」の意味に用いた上、文字の一部を「ニホヒ」のヒに改めて使用したものです。

文字の由来を紐解くと、歴史的仮名遣いである「にほひ」と国字である漢字の関連がわかり興味深いです。
 参考文献:かな墨場辞典俳句編 飯島春敬編 東京堂出版