ダイナミックな王羲之、喪乱帖(3)

3. 哀しみは最高潮

王羲之尺牘集  王羲之  二玄社    祥香臨

最後の部分は、哀しみが最高潮に達しているかのような書き振りです。
始まりのところは、慎み深く書かれていましたが、中ほどでは、気持ちが高まりました。
後半に至り、感情の高揚を隠すこともせず、筆に任せて情感にあふれています。

一行目は前回を参照していただくとして、
二行目から「奈何 臨紙感哽。不知何言。羲之頓首頓首」
読み下し文:「いかんせん。紙に臨んで感哽し、知らず、
       何をかいわん。羲之 頓首頓首。」

手紙を書くときの規則のようなものがあります。例えば「頓首」は書簡文や上書文の終尾に書いて敬意を表すものです。最後に書かれた「頓首頓首」は「頓」と「首」をつなげているように見えます。これ程くずしても、読み手には伝わるだろうと考えてのことと思います。

また、同じ行の冒頭は、「何」から「言」への連綿に勢いがあり一気に終わりへと向かって行くスピード感に満ちています。通常、行の始まりをあまり大きくしないという不文律は見事に覆されています。小気味良いリズムを刻んで、書いているように思えます。