あの人はどこでこの月を眺めているのだろうか(5)建礼門院右京大夫集を書きながら

5.同じ月をながめて

建礼門院右京大夫集 祥香書

同じ頃、平家一門の方々も同じ月を眺めて歌を詠んでいたことを作者は知る由もなかったでしょうに。

釈文「いづくにて いかなることを 思ひつつ
 こよひの月に 袖しほるらむ」

選字は、「い徒具耳傳意可那ること遠思日
     つヽこ夜悲能月爾袖し本流ら无」

鑑賞:平家物語によると、旅の空で同じ頃に詠んだ歌が残されています。
九月十三夜の名月に都を思い出して、 薩摩守忠度「月を見しこぞのこよひ
   の友のみや宮こにわれをおもひいづらむ」

   修理大夫平経盛は、「恋しとよこぞのこよひの夜もすがら契りし人の思ひ出
   られて」皇后宮亮経正、「分けて来し野辺の露ともさえずして思はぬ里の月
   を見るかな」(巻八緒環)

   誰もが衣の袖を涙で濡らしながら、月を眺めて都を偲んでいたのです。
    参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社