維盛の恋に口を挟む(3)建礼門院右京大夫集を書いて
3.前世からの約束
作者から維盛へ三首送ったうちから一首目が
「よそにても 契りあはれに 見る人を
つらき目見せば いかに憂からむ」
鑑賞:「契り」は前世からの約束。宿縁。
『源氏物語 桐壺』「さきの世にも御ちぎりや深かりけむ、世になく清ら
なる玉の男御子さへ生まれ給ひぬ」
平安時代は、前世の因縁によってこの世のあり方が決まるという、仏教の
因果応報の思想が盛んでした。「契り」には、そのように前世から決まって
いて人の力ではどうにもできない、という意味が含まれています。
歌意は、はたから見ていても、あなたと深いご縁がおありになると思われるあの人
を、つらい目におあわせになるとしたら、私はどんなにか悲しいことで
しょう。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社