「六つのみちを」道元は(4)

4.六道の衆生は
一切衆生斉く父母の恩の如く
『梵網経』に「一切の男子は、是れ我が父。一切の女人は是れ我が母なり。我、生々に、是れに従うて生を受けずということなし。故に、六道の衆生は、皆、我が父母なり」とある。

前回の訳:出家した者は、恩愛の世界を捨て無為(寂静涅槃)の世界に入るのである。無為の世界にある者のやり方は、恩愛を、自分一人の父母にかぎらないのだ。すべての生きとし生けるものを見ること

父母のごとく、その恩愛の深きことを考え、すべての生きとし生けるものに対して全て真心を持って仕えるのだ。この世において自分を生んでくれた実の父母だけに限らないのだ。*①

ここで、道元の和歌をもう一度見ると、

  六つのみちをちこち迷ふともがらは
       わが父ぞかし母ぞかし

出家者の心得ともいえる歌であることがわかります。
すべての衆生に注ぐ恩愛は大変にありがたく、心が温まる御歌です。

            *出典:正法眼蔵随聞記 山崎正一 講談社