昔の手紙を整理していると(1)建礼門院右京大夫集を書きながら

1.雲が空をおおい隠して

建礼門院右京大夫集 祥香書

空を見上げる作者には雲の広がりも
 「ひんがしは、長楽寺の山の上見やられたるに、親しかりし人、とかくせし山のみね、
  卒塔婆の見ゆるもあはれなるに、ながめいだせば、やがてかきくらして、山も見え
  図、雲のおほひたるも、いたく物がなし。」

選字は、「ひん可志は長楽寺の山乃上見や流
     羅連多る耳親しか利志人登可九
     せし山のみ年卒塔婆の見るも阿者連

     奈流二那可免い多せ者や可てかき具ら
     して山も三江春雲乃於本ひ多る
     毛い多久物可奈し」

大意は、東の方角は長楽寺の山の上を見やると、親しかった人が火葬になった人の卒塔婆が見えるのもつらいことです。部屋から外を眺めると、たちまち空が曇って、山も見えなくなり、雲が覆い隠したことも物悲しいことです。

参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社