ほととぎすの初音を聞きながら(5)建礼門院右京大夫集より

5.母と死に別れて

釈文:「別れにし 年月日には あふことも
    こればかりやと 思ふかなしさ」

選字は「わ可連爾し年月日に盤あ布こと毛
    許れ者駕利やと思布可難志さ」

鑑賞:母を失い、資盛も亡き後、悲しみにくれて茫然自失であった作者は、なんとか持ち前の自分を取り戻そうと逡巡しているようにみえる。ここでも、来年の今頃、自分は生きているだろうか、と自問し歌に詠む。

その行動が自らをかえりみて、心情を書き連ねることにつながっているのだろう。言葉にすることで、悲しみを別の形に変えていく試みを寄せ返す潮のように行っているのかもしれない。

参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社