六祖慧能に寄せて道元は(5)

5.その後の六祖慧能は
闇に、まぎれて出立した、六祖慧能は明上座が後を追いかけて大東嶺まで来たとき五祖の衣鉢を石の上に投げて言われた。

「この衣は伝法の証であり、力で争い奪い取るものではない。欲しければ持って行かれるがよい。」明上座はそれを持ち上げようとするが、動かない。

明上座がためらいながら「私は法を求めたのであって衣のためでない。どうかあなたの悟りの内容を示してもらえまいか」と尋ねると、六祖は言った。

「不思善、不思悪、正与麼の時、那箇か是れ明上座が本来の面目」
(善とか悪とかを離れたとき、一体どれがあなたの本来の姿でありますか。)

その途端、明上座は大悟した。さらに何か秘密があるかと尋ねる明上座に対して、六祖は「今述べたことは秘密ではない、自身を振り返ってみれば、秘密はあなたの中にこそあるでしょう。」*①

私たちは、真理が遠い処にあると思い、自分勝手に秘密は隠されて、他のところにあると考えてしまいます。
しかし、実は自らにあることを自覚することが大切なのです。

    *出典:①無門関 西村恵信訳注 岩波文庫