夏深きころ蜩とともに(7)建礼門院右京大夫集から

7.心が体から離れて

建礼門院右京大夫集 祥香書

釈文「ゆくへなく わが身もさらば あくがれむ
   あととどむべき 憂き世ならぬに」

選字は、「ゆ倶遍奈くわ可身毛さ羅盤あ久か連む
     阿とヽ度無へ支憂き世奈らぬ爾」

鑑賞:「あくがる」は、人の心が体から離れてさまようことをいいます。
   『源氏物語』葵「物思ふ人の魂は、げに、あくがるる物になむありける」とあり、
    訳は「思い悩む人の魂は、やはり体から離れてさまよう物であったのだな。」

    作者は、悩みやつらさが限界に達した時に心が体からさまよいだすと考えられ
    ていたことから、これを踏まえて歌を詠んだものと思われます。

歌意は、「行方知らずの我が身も、それならば心から離れてさまよいましょう。この先
     生きながらえねばならない世の中でもありませんから。

 参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社