春の夜には(2)詠じたい詩歌

2.夜の闇は

粘葉本和漢朗詠集 二玄社 祥香臨

二句目「春の夜の闇はあやなし梅の花
    色こそ見えね香やはかくるる


選字は、「者るのよ能やみはあやなしむめの八
     那いろ所みえね可やはか久るゝ」

歌意は、春の夜の闇は、全くわからないものだな。暗闇の中に咲く梅の花は、色こそは見えないが、香りは隠しようがない。

夜の闇に花の香りがただよう「暗香浮動」は漢詩の世界ではよく知られています。平安時代の人々も、知っていたはずですし、親しまれていたのでしょう。

そして、袖に香を焚きつけるといった習わしが、平安時代にあったことからも、香りには敏感であったと思われます。とりわけ、待ちに待った春の訪れを告げる梅の香りに、人々はひときわ鋭敏になっていたはずです。

 参考文献:和歌の解釈と鑑賞事典 井上宗雄他編 笠間書院