春のおもしろみ(5)声に出したい和漢朗詠集
5.春はのどかですか?
最後の歌は、「春はなほわれにて知りぬ花さかり
心のどけき人はあらじな」
選字は、「はる者那ほ王れ璽てし利ぬ者那さ可
利こゝろのと介支ひとはあらし那」
歌意は、春という季節がのどかというわけではありません。花が盛りとなれば、落ち着いてもいられません。自分もそうなのですから、よくわかるのです。
春が安穏ではない、いっそ無ければどんなにかのどかなのに、と歌うのは在原業平です。
「世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」(古今集)
これほど、人の心をそわそわとさせる花は、やはり桜を置いて他にないと、今の世にも思うことです。
参考文献:和漢朗詠集 川口久雄 講談社