生まれたての春は(1)和漢朗詠集より

1.立春の日に吹く風が

粘葉本和漢朗詠集 二玄社 祥香臨

 釈文は「袖ひぢてむすびし水のこほれる
     を春立つけふの風やとくらん」

選字は、「所てひち弖む春ひしみ徒のこ本れる
     を者るたつけふの可世やとくらん」

意味は、袖を濡らして水をすくい遊んだ夏の日が懐かしい。その水が凍っていたが、立春の今日風が吹いて解かしているだろうか。

初二句に夏、第三句に冬、下句に春の景色を写し、四季の循環の中で春の訪れを詠い、時間の流れを表しています。初の二句には、作者の体験からくる現実味があり、対照的な冬の寒さに凍てつく様を際立たせています。

藤原俊成は、『古来風体抄』で「この歌、古今にとりて心も詞もめでたくきこゆるなり」*①と評しています。

 出典:和歌の解釈の鑑賞事典 井上宗雄他編 笠間書院