許由はなぜ隠棲したのか(5)荘子を草書で書く
5.料理人が料理を上手にしないからといって
「予無所用天下為庖
人雖不治庖、尸祝不越樽
俎而代之矣」
読み下し文は、「予れは天下を用て為す所なし。庖人、庖を治めずと雖も、尸祝は樽俎を越(奪)いてこれに代わらず。」
私は天下を譲られたところで何もすることがない。料理人が料理を上手くしないからといって、祭りの尸(かたしろ)や祝(かんぬし)がお供えの酒器や肉台を持って来てそのかわりをしないものだ、の意。
「尸(かたしろ)」は祖霊が降って乗り移るかたしろ。普通神霊と近い少年がつとめる。「祝」は『釈文』に「鬼神の詞を伝えるもの」とあるように、神主のこと。*①
許由は、帝の譲位の誘いをことわり、喩えて言います。彼はそのままのありようが自然で何も作為がありません。まさに、私心なく、功なく、名誉がない真人と言えるでしょう。
出典:①荘子 金谷治訳注 岩波書店