芭蕉、西行の和歌を歌枕とする(1)

  1. 清水流るるの柳は
芭蕉自筆 奥の細道  岩波書店    祥香臨

芭蕉は、「奥の細道」の中で、西行法師の
「道のべの清水流るゝ柳陰 しばしとてこそ立ちどまりつれ」
                   新古今集 巻三夏歌
を歌枕として、句を詠んでいます。それが上記の
 「田一枚植て立去ル柳かな」

詞書として、「又清水流るゝの柳は芦野の
       里にありて田の畔に残る此所の郡守故
       戸部某の此柳見せはやなと折々に
     
       の給ひきこえ給ふをいつくのほとにやとお
       もひしをけふこの柳のかけに
       こそ立寄侍つれ」*①

現在の栃木県那須をゆかりの地としています。しかしながら、「遊行柳」として
知られ、やはり西行の和歌を題材とした、観世信光作の謡曲では陸奥国、福島県
白河の関を舞台としているのです。

いずれにしても、西行の和歌が多くの感懐を呼び、想像力をかき立てたことは
間違いのないことでしょう。さらに、与謝野蕪村も、これを取り俳句を詠んで
いることは興味深いです。

時代をまたいで、その時の作者が書いたり、詠んでみたいと思わせる、共通の
認識が受け継がれ、人々の間にも共有されていたと思われます。そうでなければ、
単に独りよがりで終わってしまいます。豊かな文化の土壌を感じざるをえません。

              出典:*① 芭蕉自筆 奥の細道  岩波書店