世の中の騒ぎは夢とも幻とも(2)建礼門院右京大夫集を書きながら
2.いっそ思い出すまいと
詞書:「よろづいかなりしとだに思ひわかれず、なかなか思ひも出でじとのみぞ、
今までもおぼゆる。見し人々の都別ると聞きし秋ざまのこと、とかくい
ひても思ひても、心も言葉も及ばれず。」
選字は、「夜ろ川意可那利
志登多耳思ひわか連春なかヽヽ思
飛も出てし度の見そ今ま傳毛お
ほゆる見志人々乃都わ可類と聞支四
秋さ万のことヽ閑久い日ても思ひて毛
こヽ露も言葉毛及は連ま故と」
鑑賞:「見し人々の都別ると聞きし秋ざまのこと」は親しかった平家の人々が都
落ちすると聞いた秋のこと。平家の人々が都を後にしたのは、寿永二年
(1183)七月二十五日、陰暦七月の秋。
まことに急な出来事で、雅な公達達の姿を思い出すにつけても、さぞ驚か
れたことでしょう。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社