在原業平の一首を多面的に鑑賞する(5)関戸本古今集より

5.長い「し」

関戸本古今集 祥香臨

和歌は静かに、渇筆で自然に始まります。「よの」から「那」の連綿は、呼吸をするように筆の方向を変えています。その分連綿の線が長くゆったりと書かれています。「多え」から「て」の連綿も左へ働きかける横画が効いてきます。

「さくら」は消え入りそうなほど薄い墨量ですが、さすがに関戸の書き手と思わせるところです。「の」は絞り出すように墨をじっくりと出していきます。二行目の「さら八」では、単体の文字に強く墨が入った箇所が印象的です。

続いて迷いなく「のこヽろは」と連綿して大きく展開しています。次の「の」はやや変形させて「は」添わせて上からの流れを失っていません。やや小さいながら、しっかりと「と介可らま」は一つの文字のように淀みがなく書かれていることが見事です。

そして「し」の長さと変化です。書くときには、息を止めて一気にいきたいものです。微妙な変化を見逃さないことが大切でしょう。