大河が浮き草を浮かべて(5)酒徳頌を董其昌が書く
5.董其昌の目指したところ
董其昌は、顔真卿の多宝塔碑を若きに日に学び、虞世南に進みました。しかし、賞鑑家の項元汴(こうげんべん)のもとで歴代の真跡を目にし、王羲之の官奴帖真跡を見るに及んで大いに得るところがありました。
彼は、王羲之から形を追うのではなく、精神を把握することに重きを置いたと言えるでしょう。それに対して、元の趙孟頫やその追随者は形似を獲得することに向かったと言えます。
董其昌は、ありのままの書に秀でていると自負し、平淡天真の妙境を目指しました。また、禅に深い造詣があり、その妙悟によって、禅の境地に至ろうとしたと思われます。
臨機応変の運筆には、とらわれのない心境が現れています。空間に余白を残しながら、それぞれの字に対し勢力の働きかけが絶妙です。奔放な筆はこの項ではそれほど見られませんが、線を長く引いたり、思い切り良く伸ばす所は、随所に見られます。
参考文献:董其昌集 藤原有仁 二玄社