金沢本万葉集巻二(6)国宝を臨書して
6.私に浮き名が立つと

鏡王女の御歌の釈文は、
「玉くしげ覆をやすみ開けて行かば
君が名はあれどわが名惜しも」
かなの選字は、「多ま久しけ於ほふをやすみあけてい可は
君可奈はあ禮と和可なをしも」
鑑賞:『金沢本万葉集』では、「覆」を「おほふ」と訓で読んでいるが、「箱の蓋をするのを『安み』とするのは意味がよく通じない」*とする説がある。
そこで、「覆」を「かへる」と訓ずる説に従うと、
歌意は、「玉のようなよい箱が簡単にひっくりかえるように、夜が明けてから帰る方があなたは容易であるからといって、あなたが夜に帰ったら、私にだけ浮き名が立つのが口惜しゅうございます。」
一方で、「覆」を「おほふ」と訓ずると、「つつみ隠す」や「かばい立てをする」と解釈することもできる。「開けて」に「安み」がかかると考えると、
「玉のようなよい箱の蓋が容易く開いたからといって、包み隠していたことが公になるのは、私の名誉にかけて口惜しいわ」と言ったところだろうか。
参考文献:万葉秀歌(一) 久松潜一著 講談社学術文庫