あの人のことを全て忘れたいけれど(1)建礼門院右京大夫集を書きながら
1.自然な別れではなく
かなしいとすら言葉にできないほどのつらい体験をした作者は、忘れたいと思う
けれど、
「昔も今も、ただのどかなる限りある別れこそあれ、かく憂きことはいつかは
ありけるとのみ思ふもさることにて」
選字は、「む可しも今裳多ヽ能と可奈流可支
りあ流王か連こ所阿れ可久う記こ
登者い徒可盤あ利希類とのみ思
ふも佐ること耳て」
大意は、昔も今も、自然な死別を迎えることはあるけれど、このようにつらい目に
あうことはあったでしょうかとばかり思うのも、当たり前のことと思われ
ます。
詞書の項は、あまり変化をつけずに淡々とした書き方ですが、墨の変化は隣同士
で同じにならないように書かれています。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社