気力に満ち迫力のある教長の書(1)長谷切を臨書して

1.「白氏文集」から

長谷切 藤原教長筆 祥香臨

前回まで粘り強い仮名の書をご紹介しましたが、今回は同じ書き手の迫力
ある書です。

「和漢朗詠集巻上断簡(長谷切)は古典の中でも名品の誉が高い書です。
これは「和漢朗詠集」巻上・冬・仏名の中で唐代の詩人、白楽天の『白氏
文集』に所収されているものを藤原教長が書いたものです。

書き下し文は、「香火
        一爐燈
        一盞 白」

この書では、「爐」を金偏と書き誤っていますが、正しくは火偏です。
初めに「香」の一画目の筆を深く入れて、紙に食い込んでいます。スピード
の変化によって空気が入ったような線も見えます。

二行目の褐筆「爐」は偏が細く始まりながら旁は終わりにかけて粘りのある
線が筆を開くことで変化を出しています。「燈」は墨が切れ切れになりなが
らも気脈を失わず、「火」へ向けて空間に働いています。

 参考文献:書の美 島谷弘幸著 毎日新聞社