かつての小宰相を偲ぶ(1)建礼門院右京大夫集から

1.友の問いかけ

建礼門院右京大夫集 祥香書

宮中にいた頃のお友達から言ってきました。
「宮にさぶらふ人の、つねにいひかはすが、『さてもその人はこの頃いかに』と言ひたりし返事のついでに

雲のうへを よそになりにし 憂き身には
吹きかふ風の 音も聞こえず


選字は、「雲のう遍越よ處耳那里二し憂
     き身に者布支かふ風農音も聞え寸」

その人は近頃どうしていらっしゃるの、と聞かれた返事のついでに、
宮仕を辞して離れた、憂き身の私のところへ、あの人は訪れることもなく、風の便りさえも聞こえてはきません。

鑑賞:「ふきかふ風」は「音」を導く序で「雲」「風」「音」は縁語。自然の風物を巧みに歌に用いて連想させる手腕はさすがです。

 参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社