昔の手紙を整理していると(5)建礼門院右京大夫集を書きながら

5.生きている限りはあの人と

建礼門院右京大夫集 祥香書

ながれてと たのめしことも 水茎の
 かきたえぬべき あとのかなしさ


選字は、「なか連てと堂の免しこ登毛水茎の
     閑起多盈ぬへ支跡のか那しさ」

鑑賞:「ながれて」は「水のあわの消えでうき身といひながら 流れてなほもたのまるヽかな」紀友則『古今集』恋五(792)から生き永らえての意味で用いています。水の泡が消えずにしばらく浮いている様子から、失くならずにいる身を表しています。

歌意は、生きながらえて、あの人を頼みにしていこうと思わせたのはこの手紙でした。今では二人の間柄も縁遠くなりそうで空しいのです。

「水茎」から「水」を、そこから「ながれて」を連想し、「かきたえ」に「書き」をかけています。言葉の音をかけ合わせて、複雑な意味を持たせていることに気づきます。変体かなを用いて、言葉を音感に戻すことで、和歌が複相的に展開していくことがわかり興味深いです。

 参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社