會津八一の歌「くわんおんの」を書く(2)かな文字にて

祥香書

會津八一の歌の特色に、ひらがな表記があります。この点について、作者は『会津八一全歌集』の「例言」で「いやしくも日本語にて歌を詠まんほどのものが、音声を以て耳より聴取するに最も便利なるべき仮名書を疎んずるの風あるを見て、解しがたしとするものである」

万葉集に親しんでいた八一は、詠むことから生じる音の響きを大切にしていました。
ちなみにこの歌を漢字仮名交じりにすると、
 「観音の背にそふ葦の一本の 浅き緑に春立つらしも」

このように書くと違いが歴然とします。かな作家が変体かなを用いることも基本的には音の調べを大切にしていた古代からの歌の流れを汲んでいます。現代は、音よりも見ることに主眼が置かれがちです。書作においても漢字が入ると、その文字が持つイメージがまず映像として浮かぶようになります。

歌人として結社に属さずに活動をし、書作においても新境地を開いた會津八一は、底流となるところを探求した文人であったと思います。
 参考文献:和歌の解釈と鑑賞事典 井上宗雄他編 笠間書院