在原業平の一首を多面的に鑑賞する(3)関戸本古今集より

3.伊勢物語には

関戸本古今集 祥香臨

『伊勢物語』の作者はわかっていませんが、在原業平とおほしき男性の一代記が男女の情感を中心に風流な暮らしを描いています。第八十二段には惟喬親王に従って山崎の水無瀬に遊び、交野で狩りをした後、渚の院にて宴に興じた時の歌とされ、

「今狩りする交野の渚の家、その院の桜、ことにおもしろし。その木のもとに下りゐて、枝を折りてかざしにさして、上、中、下、みな歌詠みけり。馬頭なりける人の詠める。」として、この歌が記されています。

一方、『土佐日記』には土佐から帰郷の途中に、渚の院を通り昔を懐かしんでいる記述があります。故惟喬親王のお供で、故業平中将が詠んだ歌として紹介されています。ただ、『土佐日記』では、第三句が「さかざらば」となっていて、関戸本古今集と同一となっています。

関戸本古今集の筆者は、『土佐日記』に親しんでいたのでしょうか。
 参考文献:和歌の解釈と鑑賞事典 井上宗雄他編 笠間書院