在原業平の一首を多面的に鑑賞する(2)関戸本古今集より

2.桜のうつくしさは

桜の美しさはいつ頃から賞賛されるようになったのでしょうか。桜は、中国大陸やヒマラヤにもありますが、日本の場合が種類が多く特に園芸種が極めて多いバラ科の落葉高木または低木です。梅が中国原産で香が歌に詠まれることが多いのに対して、桜は対照的です。

王朝人が愛した花は桜ですが、開花を待ち望み、盛りの時はいつまで保つことかと雨風を心配しなければなりません。散りゆく様は優雅ですが、心は乱れて落ち着くことができなくなります。古の人々も同様に、気持ちが休まらず桜を眺めていたのでしょう。

そういう桜への思いを一筋に詠んだ歌が業平の
「世の中に絶えて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」

咲いている桜から受ける感動を、なかったとしたらと仮定する背景にはどういうことがあったのでしょうか。
 参考文献:和歌の解釈と鑑賞事典 井上宗雄他編 笠間書院