かつて、あなたにお逢いした時(3)建礼門院右京大夫集から

3.私の思いを告げに

建礼門院右京大夫集 祥香書

隆信からのお返しは詞書からさすがと思われます。
 「かへしに、『われしも思ひ出づるを』など、さしもあらじとおほゆることどもをいひて」

選字は、「かへし爾王れ志も思ひい徒るを
     なと佐志もあらしとおほゆることゝ
     もをい日弖」

詞書の一行目に墨を入れ、ニ行目の上部で渇筆になります。中程に墨の潤筆が重なり、塊となっています。面の構成を考慮しますと、墨量は大切な要素です。

大意は、お返しに、隆信から「私の方こそ思い出していたのですよ」とそんなことはないでしょうと私には思われますが。

隆信は調子良く、「それは私も思っていたのですよ」などど書いてくることは誠意が感じられないと作者が言うのも無理からぬことと思われます。さらにお歌が続きます。
 参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社