しのぶ恋の始まりは、資盛への思い(4)建礼門院右京大夫集を書いて

4.恋の路には

建礼門院右京大夫集 祥香書

 人の目を忍んで恋する作者には、知られたらどうしようという気持ちがありました。
 「恋路には まよひいらじと 思ひしを 
  うき契りにも ひかれぬるかな


選字は、「こ悲ちに者ま夜日いらし登思ひ
     志越うき遅記り爾毛比可連ぬるかな」

歌意は、恋の路には、迷い込むことなど決してしないと思っていたのに、つらい前世の縁にとらわれてしまったことです。

「こいぢ」を「恋路」と書けば、自ずから恋の路だろうと推測されますが、ここでは作者は掛けています。「ひぢ」は泥のことで、目に浮かぶさまは、ねっとりとした質感の逃れようのない中に入り込んでしまった作者の当惑でしょうか。

現代の言葉にすると、そのからみつくような皮膚感が伝わりません。そして、「うき」も「泥」の掛け言葉で二重に意味がかけあわされています。ここでも、変体かなを用いるわけがお分かりかと思います。一つの意味に捉われずに複層的に詠んでいます。

 参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社