利欲と感情(2)董其昌の酒徳頌から
2.耳をすましても
「静
聴不聞雷霆
之聲」
読み下し文は、「静聴(せいちょう)すれども雷霆(らいてい)の聲を聞かず」
「静聴」:静かにじっと聞き入ること。
「雷霆之聲」激しい雷の音。*①
現代語にすると、「耳をすましてじっと聞いても、激しい雷の音さえも聞こえない。」
ここでは、二行目の「静」と「聲」に着目したいと思います。このように終画を長く引く線を持つ字は展覧会などでも好まれます。大いに見せ場となるからで、大字の二六尺や二八尺では、二行目の上部に位置することが多いようです。
董其昌は、注意深い運筆で線の抑揚をつけ、筆の面を縦横に用いる手腕で揺るぎない造形を作り出しています。作為的なところは、感じさせず、あくまで自然な運筆が心地よいのです。
出典:*① 漢詩と名蹟 鷲野正明 二玄社