春立つ日に詠む(4)和漢朗詠集より

4.歳が改まらないうちに

粘葉本和漢朗詠集 二玄社 祥香臨

 釈文「年のうちに春は来にけり ひととせを
  去年とやいはむ 今年とやいはむ」元方

「としのうちに者るはきにけりひ
 とゝせをこ所とやい者むことしとやい者む」

あまり変体かなを使わずにゆったりとおおらかな書き振りです。
これは、『古今集』の巻頭を飾るもので、宮廷歌会・歌合に名を列ねた在原元方、業平の孫が寛平御時后宮歌合で詠んだ一首です。

歌意は、年内に春が来てしまったが、昨日までの一年を今日から去年と呼ぶのだろうか。それとも正月を迎えるまでは今年というべきだろうか。

立春の新年が同日であるのが、当時の原則であったが、ときに年内に立春を迎えることがあったことから、暦の上の面白さを詠んだもので、理知的な表現と言えます。

 参考文献:和歌の解釈と鑑賞事典 井上宗雄他編 笠間書院