「琴ひけ」と言われ建礼門院右京大夫は(3)

3.琴の音色を松風にたとえる

建礼門院右京大夫集  祥香書

ここで、「松風のひびき」が登場しますが、これは「琴の音」のことです。この比喩は漢詩によく見られるものです。

『和漢朗詠集』管弦付舞妓に
 「第一第二の絃は索々たり 秋の風松を払って疎韻落つ
  第三第四の絃は冷々たり 夜の鶴子を憶うて籠の中に鳴く
  第五の絃の声はもつとも掩抑せり ろう水凍り咽んで流るること得ず」

                        五弦弾 『白氏文集』

 現代語訳:五弦琴の第一・第二の弦は低く太い音で、秋風が松の枝に吹く時のようにざわざわとした響きです。
第三・第四の弦は調子が高くてりんりんとひびき通り、夜の鶴が子を思って籠の中で鳴くような哀切さがあります。

第五の弦は最もその音がするどく、また押さえつけれたようであり、かのろう頭の水が氷に閉ざされて咽び滞っているのを思わせます。*①

琴の音に様々の色があり、その表現が具体的で眼前に情景が浮かぶようです。
一方で、松風の音はざわざわした響きというのは興味深く思います。

    *出典:①和漢朗詠集 全訳注川口久雄