「琴ひけ」と言われ建礼門院右京大夫は(4)

4.和歌も琴の音を松風に喩えた

建礼門院右京大夫集  祥香書

琴の音を松風に喩えることが、好まれました。

  「琴の音に峰の松風通ふらし
  いづれのをより調べそめけむ」
          斎宮女御 『拾遺集』雑上
と、歌われています。

歌意:静かな夜、美しい琴の音に、峰の松風の音が通い合い、妙なる調べが響いてくる。一体、どちらの(琴・峰)の「を」(緒・尾)から奏で始めたのであろうか。

こちらは詞書に「野宮に斎宮の庚申しはべりけるに、松風入夜琴といふ題をよみ侍りける」とあるように題詠で、この題は漢詩からとったものです。

また、その後も松風と琴の音の情趣は、登場します。特に『平家物語』の「小督」の叙述の一節「峰の嵐か、松風か、尋ぬる人の琴の音か』は良く知られています。

こうして、和歌を読み、歌を返すには漢詩の素養が欠かせないものであったと思われます。共通の文化的土壌の中で、和歌を楽しんでいる豊かな時代であったのでしょう。

   参考文献:和歌の解釈と鑑賞事典 井上宗雄他編