「琴ひけ」と言われ建礼門院右京大夫は(2)

2.松風の響きのような

建礼門院右京大夫集  祥香書

それでは本文を見てまいりましょう。
釈文:頭中将実宗の、つねに中宮の御方へまゐりて、琵琶ひき歌うたひ遊びて
   ときどき、「琴ひけ」などいはれしを「ことざましにこそ」とのみ申し
   て過ぎしに、あるをり文のやうにて、ただかく書きておこせられたり。

  松風の ひびきもそへぬ ひとりごとは 
  さのみつれなき 音をやつくさむ*①

現代語訳:頭中将実宗が平素、中宮の御所へ参られて、琵琶を弾き、歌などの
     遊びをして、ときどき「琴ひけ」などといわれるのを、

     「興ざめでございましょう」とだけ申して逃げていましたところ、
     あるとき、手紙のようにして次の歌だけおよこしになりました。

   松風の響きのような、妙なる調べのあなたの琴と
   共に奏することもなく独り奏でる私の琵琶は
   つれないあなたを恨んで泣きの音となるでしょう

たくみに共に奏することを促してくる手法は、さすがです。さて、建礼門院右京大夫はどう対処したのでしょうか。

    *出典:①建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社