何にでも書いてしまう良寛さん(1)

1.鍋のフタに書く

良寛書  祥香臨 *①

「心月輪」しんがちりんと読みますが、他にも読み方はあります。
良寛が解良家へ遊びに出かけた時、たまたまこの鍋蓋を見て、急に書を書きたい心持ちになり書きつけたという有名な作品を臨書したものです。

良寛さんが定住された五号庵の下の方に”良寛の月見坂”があります。
お客様を待たせて、下の村へ酒を買いに行った良寛さんが、月の美しさに見ほれてしまい、松の切り株に腰を下ろし、すっかりお客さんのことを忘れてしまったという、逸話のある坂です。

近頃では、そこにある案内板に気づかずに自動車で通り過ぎてしまう人が多いとのことです。*② 先を急ぐ方は見すごしてしまうのでしょう。

良寛さんのエピソードはいずれも微笑ましく、その時その場所がすべてであることを体現されています。現代の人から見ると、ぼんやりしているなあと思ったりしますが、実は、今この時に生きておられたのです。

                *出典:① 良寛の名品百選 加藤憘一
                    ②禅の友 2019/9