ダイナミックな王羲之、喪乱帖(5)
5.晩年の完成された書
最後の四行は「得示帖」(とくじじょう)と冒頭の二文字から呼ばれています。
原文「得示 知足下(猶)未佳。耿々 吾亦劣々。明日出乃行。
不欲触霧故也。遅散。王羲之頓首。」
日本語訳:「お送りした意見について、是非ともお調べください。お手紙を受け
とり、あなたの健康がすぐれないことを知り。心配しております。
私もあまりよくありません。明日、日が登れば出かけます。霧に触れ
たくないからです。薬が発散するのを待ちます。羲之が謹んで申し上
げます。」
出典: 「王羲之の世界」島谷弘幸監修
これまでの喪乱帖や二謝帖と比べても、そう違いはないものの、力強さが影を潜めているように思えます。文面から推察するに、憔悴した様子がうかがえます。
感情の発露というものが、張り切っているときは溌剌と大胆に、少しやつれているときは
じっくりと、その時に応じて表れていると思います。
王羲之の書は晩年に完成をみたと言われています。喪乱帖はその代表作として実際に間近で見られる、宮内庁三ノ丸尚蔵館が所蔵する貴重な尺牘なのです。