一読の価値あり、孫過庭「書譜」(1)

  1. 文質彬彬
書譜  孫過庭  台北故宮博物館蔵   二玄社     祥香臨

孫過庭の「書譜」の原本は現在、台北の故宮博物館に所蔵されています。
書風は王羲之の伝統を受け継ぐ、優れた書論です。孫過庭の生没年は不詳ですが、
唐代に活躍したと考えられています。

特徴は駢儷文(べんれいぶん)という美文体で、王羲之を典型とし、能書家を品評しています。そして諸芸術の価値と学書の理念を述べています。

その中で、興味深い書論を選び臨書をした上で解説を記します。
大意は、「ある批評家は、『四賢すなわち鍾張二王は古今に特絶したした名人である。そして今は昔より劣っている。昔の書は質朴であって今の書は妍美である』という。

しかし、およそ質とか妍とかいっても、それは時代とともに変遷するものなのである。太古に文学が発明され、それでことばが書き記され書が生まれた。何事によらず時代が進むにつれて、淳厚なものから軽薄なものへ、質朴なものから文飾あるものヘ変遷するのは理の当然である。

だから、よく古法を守って時代感覚を失わぬこと、現代風であっても、その悪い面には染まらぬようすることがたいせつである。

これが論語のいわゆる「文質彬々として然る後君子なり」ということなのである。」
                   出典:「書譜」書道技法講座  今井凌雪編

文質彬彬(ぶんしつひんぴん)とは、外見の美と実質がほどよく調和しているさまをいいます。時代は異なりますが、今も心に留めておきたい言葉であると思います。