ダイナミックな王羲之、喪乱帖(2)
2,感情にあふれる筆致
次第に感情が高まり、あふれていく様を書で表すとこのようになるということが
わかる尺牘です。
原文は「痛貫心肝。痛常奈何奈何。雖即脩復。 未獲奔馳。哀毒益深。奈何」
釈文:「痛 心肝を貫く。痛 当にいかんすべき。(奈何すべき)
即ち修復すと雖も、いまだ奔馳するをえず。哀毒ますます深し。」
まさに心の痛みが、ふつふつと湧き上がる感情とともに、悲しみと憤りが入り混じって
います。しかしながら規矩を外さず、品位を保ちながら見る者にも、悲哀を切々と訴え
かける手腕はさすがです。
一行目の冒頭の「痛」と同じ行の「痛」では同じ文字を使いながら、表情が一変してい
るのがわかります。行の始まりはやや静かに、中ほどで展開していく様子は今の時代に
も通ずる書き方です。
やはり、わざとらしさや外連味(けれんみ)が感じられないのは、王羲之が人の心に訴え
る姿がありのままだったからでしょう。