芭蕉、西行の和歌を歌枕とする(3)
3. 柳の陰は涼しくて
芭蕉の句が、西行の和歌「道のべの清水流るゝ柳陰しばしとてこそ立ちどまりつれ」を
本歌として詠まれています。西行の歌意は「道の端に、清水の湧き流れるこの大きな柳の
樹陰、ほんのしばらく、汗の乾く間のつもりで立ち止まったはずのことだったのに。」
今回は、「樹陰」を詠んでいる漢詩を取り上げます。
二行目から、「青苔の地上に残雨を銷す緑樹の影の前に晩涼を逐ふ」 白居易
意味:「青やかな苔に先ほどまで見えた、夕立の名残りの雨滴はもう消え去りました。
雨上がりのすがすがしい微風を感じ、緑濃い木陰の辺りで、わたしは夕涼みをします。」*①
和漢朗詠集の端正な文字群が清涼感ただよう漢詩です。藤原行成の筆と伝えられていますが、確証はないものの、和様の漢字でいずれの書体でも、お手本になるような字形です。
この和漢朗詠集は藤原公任(966〜1041)が日本の代表的な詩歌集を編纂したものです。
漢詩と和歌が交互に配置されています。漢詩は、楷書・行書・草書を混ぜ合わせ、和歌は
草仮名・平仮名とともに書かれています。*②
ここで、和歌にはあまり漢字は使われず、変体かななどが使われているのは、掛詞や
縁語などを分かりやすくするためではないかと思われます。漢字の持つイメージはある
方向に人の感受性を刺激するからです。
出典:*① 和漢朗詠集 講談社
*② 粘葉本和漢朗詠集 二玄社