思ひがけない月夜の逢瀬(9)和泉式部日記を書いて

9.形式的にお話して

釈文:「ものばかりきこえん、と思ひて、西の妻戸にわら座差し出でて、いれたてまつるに、世の人の言へばにやあらん、なべての御様にはあらず、なまめかし。」

選字は「も能者可利幾こ 盈无と思比て西の妻戸二王羅さ沙志意て 天入れ多て満つる爾世乃人農いへ者にやあら無 奈遍て乃御様爾はあら春那須ま免可し」

鑑賞:「西の妻戸」は建物の四隅に付けれた入口で西側のもの。正面の入り口ではない。

「なまめかし」は格式ばった仰々しい感じではなく、未熟のように見える意味。そのように見えながら実はしっとりと洗練された美を表す。

大意は「形式的にお話をしよう、と思って西のいるぐちに藁で編んだ敷物を差し出して、入っていただいたが世間の人々は噂しているせいだろうか、宮は通りいっぺんの有り様ではなくて、しっとりと優美であった。」

参考文献:和泉式部日記 和泉式部集 野村精一校注 新潮社