しみじみと埋み火をかきおこし(1)建礼門院右京大夫集を書きながら
1.色々心の中で思っていることを
宮中の女友達と心のうちを話しますが、
「宮のまうのぼらせ給ふ御供してかへりたる人々、物語りせしほどに、
火も消えぬれど、炭櫃の埋み火ばかりかきおこして、おなじこころなる
どち四人ばかり、『さまざま心のうちども、かたへはのこさず』など
いひしかど、思ひ思ひにしたむせぶことは、まほにもいひやらぬしも
我が心にも知られつつ、あはれにぞおぼえし。」
大意は、中宮が参上なさった後お供をして帰る人々が、物語をした時に、
灯火は消えてしまった。埋み火をかきおこして気心が知れた四人が「心
にしまっていることなども残さず話しましょう。」と言ってはみたものの
それぞれが心の内に秘めたことは言わないものだな、と自分もそう思って
切ないものです。
心の内の複雑なあやが詞書によってもわかりますが、これから詠む二首歌
が興味深いのです。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社