湯治に来た友へ歌を贈る(1)建礼門院右京大夫集から
1.中宮にお仕えしていた頃
かつて中宮にお仕えしていた時のお友達が湯治に山里へ来るというので歌を贈
りました。
「宮にさぶらひし雅頼の中納言の女、輔どの問いひしが、物いひをかしく
にくからぬさまにて、なにごとももうしかはしなどせしが、秋頃山里にて、
湯あむるとて、ひさしくこもりゐられたりしに、事のついでに申しつかはす。」
選字は、「宮に散布ら日志雅輔の中納言の女
す介との登い日し可物いひをか志久
爾九可羅ぬさまにて奈耳こと毛
申し可は四奈と勢志可秋ころ山里
にて湯あむる登天ひさし久こ裳利
ゐら連た里し爾事農徒意て二
申しつ可盤須」
大意は、源雅頼の女で輔殿という方の話し方がしゃれていて愛らしく、なんでも
気軽に話をしていました。秋頃山里で湯治するというので、おくりました。
鑑賞:清少納言『枕草紙』によると「湯はななくりの湯。ありまの湯。たまつくり
の湯。」と記していますが、この場合、友人は湯治といっても有名な温泉を
訪ねたわけではないのです。
山里で湯治している友へ向けて書かれた歌には、秋の山里の風情が歌われて
いきます。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社