逢坂の関を越えて(3)建礼門院右京大夫集を書いて
3.枕よ私のことを忘れないで
隆信に正妻が決まるらしい、と聞きつけた作者は、愛用の枕に向けて歌を詠みます。
「たれが香に 思ひうつると 忘るなよ
夜な夜な慣れし 枕ばかりは」
選字は、「た連可香爾於も日うつると王須る奈
よ夜な〃那連し枕者可り盤」
鑑賞:和歌は二行書としていた底本を参考にしました。「た連」と右に働きかけた流れを「可香」で左に戻しています。左右の動きと文字の大小を取り混ぜながら一行目は構成されています。二行目は、その流れに添いながら、より大きく展開していきます。
「夜な」は繰り返しなので省略して、「枕」の終画で空間を動かし、「り」で伸ばし「盤」でひきしめています。適度に入れた漢字と可奈がバランスよく行を作っていると思います。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社