関戸本の臨書を読む(3)

3,渇筆は静かに流れる 

前回の詞書の後半部分:「見てよめる」
「おほいまうちきみ」は「於本い万うち支三」と書いていますが
この流麗さにはため息がでます。「本」から「い」へ字幅を広げた後、
「万」を下で受けています。 

「う」で左に少し張り出してから、「ち」で右へ動かしています。
「支」は真下より右寄りにしながら「三」を右へ流しおさめています。

「よはひはおいぬし」
「よ」は「與」の省略化したものです。「は」は「者」を用いています。

「ひ」は「悲」を使い、左右に揺らして字幅を広げます。
「は」は「波」ですが、控えめながら懐深く書いています。 
「お」は「於」で少し大きく右の空間に展開しています。接近して「い」
「ぬ」「し」を書くことで、密度を出して右へ流しています。

「し」は「之」ですが、やや短めながら隣の行の「三」の下の開いた空間
に効果的に働いているのです。渇筆だからこそ、墨の変化が生きている箇所
と言えると思います。