関戸本の臨書を読む(2)

2, 選字の違いを楽しむ Enjoy the Difference of selection

上の部分の選字を見ていきますが、その前に詞書(ことばがき)です。
「させるを見」てよめる
「さきの』おほいまうちきみ
前回述べたように、桜の挿してあ花瓶を見て、攝政太政大臣が詠まれた
と前置きがあります。

詞書が上から二字ほど下げたところから始まり、筆者の御名前がさらに
二文字ほど下げたところから書き始めています。この二行の位置に注目
してください。

三行目:「としふれば』
行頭から、すっと伸びやかな細線に品位を感じます。
「とし」は「東之」と書き寸松庵色紙と同じ選字です。色紙は墨の入った
潤筆であるのに対し、関戸本は、渇筆で「之」がより長く優雅です。

「ふ」は「布」を使い、長めに伸ばしたいところです。しかし、終筆で
「れ」を反動でつなげ、冗漫になることを防いでいます。心憎い配慮です。

「れ」は「禮」の草書体により近い複雑の文字を持ってきました。
おそらく「禮」の終筆が右から左へ戻る筆脈を活かすためと思われます。

そして驚くことに「盤」を「は」として、この行で最も字幅がある文字を
用いています。寸松庵色紙では「者」をもってきて「れ」で包むようにし
たこととは、対照的な思い切った選字となりました。