萌えいづる春になり(1)和漢朗詠集を口ずさむ
1.頭をもたげた早蕨は
「紫塵嫩蕨人拳手 碧玉寒蘆錐脱嚢」野
読み下し文は、「紫塵の嫩き蕨は人手を拳る
碧玉の寒き蘆は錐嚢を脱す」
「紫塵」は早蕨の穂をおおう紫褐色の細毛
意味は、早蕨が紫色の綿毛をつけて頭をもたげた姿は、人が拳を握った形に似ている。水辺の緑の玉のような細い足の目は、錐の先が袋をつきやぶっているように見える。
嵯峨天皇行幸の折、小野篁に詩作を命ぜられ、この詩を作ったことで宰相に任命された、という逸話があります。
春まだ早い季節に、生命の息遣いを感じる営みが人々の心に触れ詩となり、口ずさまれるようになったのでしょう。その喜びが偲ばれるようです。
参考文献:和漢朗詠集 川口久雄 講談社