深まってゆく春の日に詠じて(2)和漢朗詠集を書いて

2.暮春の暁

釈文:「低翅沙鷗潮落暁 乱絲野馬草深春」
書き下し文は「翅を低(た)るる沙鷗は潮の落つる暁 糸を乱る野馬は草の深き春」

鑑賞:『菅家文集』「晩春松山館に遊ぶ」詩。文では「暁」を「暮」にとる。道真が讃岐守として任地にあったときの作である。『元ジン集』に「天を遮る野馬春喧しきことなく、水を拍つ沙鷗を湿して低れたり」と相類するという説がある。

「野馬」かげろうのこと。

現代語にすると「暮春の暁、潮が引いた後の砂州に、鴎が翅を休めている。草深い春の野原でかげろうが糸をばらばらにしてゆらめいている。」

参考文献:和漢朗詠集 川口久雄訳注 講談社学術文庫