思ひがけない月夜の逢瀬(4)和泉式部日記を書いて
4.おひたる蘆
釈文:「『おひたるあしにて、かひなくや』ときこえつ。」
選字は「お比多流あし爾傳可飛な久やと支こ江つ」
鑑賞:「おひたるあし」は古今集 山部赤人の「何事もいはれざりけり身のうきは生ひたる蘆のねのみなかれて」からの引用。「生ひたる蘆」は「ね(音・根)」の序。
「ねのみなかれて」は「音のみ泣く」で声を上げて泣くだけであるの意味。「かひなく」は「甲斐」と「貝」をかけて「蘆」の縁語。ここでは断りの意図を持つ。
大意は「『ただただ泣くだけで、いらしたとしてもなんの甲斐もなく、貝のように閉ざしていることでしょう。』と申し上げた。」
参考文献:和泉式部日記 和泉式部集 野村精一校注 新潮社